『〜地震予知を考える〜生活の中でのリスクマネジメント
空振りのマネジメントのあり方方』

<地震予知も天気予報くらい身近に>

山本 昨日までは、リスクマネジメントと不確実性のマネジメントについて、地震予知を対象として取り上げてきました。地震予知が、リスクマネジメントのひとつの方策として、Protection(何か起こることを想定して、それに対して準備をするという
もの。予防する。5/31放送分参照)のツールとしては非常に有効であるはずです。特に、日本の場合には、地震多発地帯で経済活動を行ってきたということもあり、少しでも可能性があれば、地震予知は行うべきだと思うんですね。
佐中 でも、「地震を予知したので、注意をしてください」という話を聞いたことがないですね。
山本 いままでそういう状況になかったのかもしれませんが、現実としては、地震予知が不確実性を伴うものであり、社会の理解を得られていない状況です。
佐中 地震には幾つかの種類があって、その性質によって予知がしやすいものとそうでないものがあるということでしたね。
山本 例えば、東海地震に関しては、空振りのコストがわれわれの試算では、一日あたり7000億円となったんですが、このような高額な空振りのコストがあっては、有効な情報も怖くて流せないということなんです。もう少し不確実な段階で情報を発信するには、受け手がそれを理解して、それに対処する準備をするようになる必要があります。そうすれば発進する側も安心して情報を流せるわけです。
佐中 天気予報みたいにもっと身近になればいいんですけどね。例えば、雨が降るかもしれないから傘を持っていくように、地震が起きるかもしれないから、注意をするみたいに。そんな簡単ではないでしょうけど。
山本 なかなか慣れるということは難しいと思うのですが、過度に反応するのはよくないということです。



<空振りのマネジメント>

山本 不確実な地震予知も、有効にその情報を生かすためには、空振りを許容するスタンスが大切なんです。と同時に、リスクマネジメントと空振りのマネジメントのバランスをいかにとるかも非常に重要です。いくつか例をあげてみますと、初日にも話しましたが、空振りといえば清原のバッティングですね。今の彼に確実性を求めて、空振りはできないというプレッシャーをかけると余計にだめになると思います。また、彼の空振りを恐れると、監督は彼を試合に出せなってしまいます。彼の空振りを許容するということになると、本人も監督も「空振りしてもいい」と思えるように、打順を下げてあまり過度に期待しない、などというマネジメントが必要になります。極端な話をすれば、彼をスーパースターとして、野球界をもっと盛り上げようと、3ストライクではなく、4ストライクにするというのも大胆な改革案で、こうすると、イチローと清原の打率の差はかなり小さくなるかもしれません。
佐中 それは思い切った策ですね。
山本 逆に、リスクマネジメントの視点が欠けているものとしては、3年くらい前にパチンコのプリペイドカードの偽造事件が問題になりました。被害が630億円に達したといわれています。この問題は、偽造のリスクをまったく考えず、全国的に展開し、1万円という高額のカードも作っってしまったわけです。その結果、パチンコカード会社はかなりの被害を受け、業界自体にも悪いイメージがついてしまい、市場の成長がとまってしまいました。
佐中 リスクに蓋をしてしまったのでしょうね。
山本 企業においての研究開発や新商品開発においてもこのような視点は重要です。私のチームで、科学技術庁の委託で企業の研究開発成功事例の調査を行ったんですが、60%程度のテーマが「開始の段階できわめて困難なテーマである」と認識しつつスタートしていたんです。逆に簡単だと思われてスタートしていたのは、わずかに10%程度でした。研究開発で失敗が許されなければ、簡単に成功するようなテーマにしか、研究開発ではチャレンジできなくなってしまいます。
佐中 「型破りなヒット」は、ある程度のリスクが許容されているという背景のもとで、成功してきたんでしょうね。
山本 ところが最近は研究開発にも収益性が必要だという見方もあります。企業における研究開発では、投資対効果に重点をおくようにシフトしてきているという報道がされています。でも下手をすると、研究者がチャレンジをしなくなるという可能性も無視できません。だから、研究者には「空振りを許容」しつつも、実際には空振りさせないというマネジメントが研究開発マネジメントにも欲しいところですね。
佐中 今週、紹介したソニーのAIBOもそれにあてはまりそうですね。
山本 そうですね、ああいうものに事業性を求めたら開発できないと思います。さらに、日本でも産業再生のためにベンチャーの育成を、という意見がかなり聞かれるようになってきましたが、日本の場合、社会自体があまり失敗を許さないという傾向があるます。いまだに大企業に入社することが生活する上でのセイフティネットになるという感があるために、やはり、大学を出て、率先してベンチャーを起業しようという人材がなかなか出てこないわけです。
佐中 確かに米国なんかに比べると、少ないですよね。
山本 失敗に対して、米国は「3度目の正直」的なスタンスなのに対し、日本は「2度あることは3度ある」という感じで、失敗が許される土壌でないですからね。社会インフラとしてセイフティネットが充実していれば、もっとベンチャーを起業しようという人も出てくるはずだと思うんです。あとは、そのような企業をベンチャーキャピタルなどが支援をしつつ、経営の指導をしながら失敗させないということが日常になれば、大企業では事業化されないアイディアが、もっとベンチャーから社会に事業として提供されるようになるはずです。このような形で、「リスクマネジメント」と「空振りのマネジメント」の両方の視点からいろいろな問題を見てみると、かなり面白く、日本のシステムの中では、このような視点が欠けていることがよくわかります。こう言った見方で世の中を見ていくことをお勧めしたいですね。
佐中 若いサラリーマンが、多く外に飛び出してくる時代が来るといいですね。


今週末は、いよいよ日本ダービーです。山本さんは、本命◎にオースミブライトを指名しました。対抗○にはナリタトップロード。皐月賞の2、3着馬を本線にするそうです。あとは押さえで、ニシノセイリュウと出走できればフロンタルアタックの2頭。でも「1点でいいかもしれない」と強気のコメントもありました。天皇賞は惜しくも外してしまった山本さんですが、今回はどうでしょうか?次回の山本さんの登場は、6月28日です。お楽しみに。

                            (洋)

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